先週土曜日も娘にせがまれて「ぐるぐるの本屋」へ行った。いや、べつに宣伝を手伝おうというわけではないのだが、行けばなにか発見があって、書くネタにちょうどいいので「娘と松丸本舗」という話が多くなる。親バカみたいで色気も何もない。
私はそもそも行く目的があった。「まぼろしのテレビ局」の補助資料探しのため、淡谷のり子先生の棚周辺をみて、1950年代近辺のジャズ・流行歌関係のデータになる本を探そうと思っていた。
しかし、淡谷先生の本は聞き書きなのかゴースト自伝なのか、私にとって肝腎な話があまり拾えない。これなら元マネージャーの山県さんから聞いた話のほうがはるかにいい(危なくて直接書き出せそうもないのだが)。せめてその楽屋話の裏どりができればと思ってはいたけれどダメ。そのかわり、その隣の棚で三國一朗の伝記本を発見。新刊書だが、このような本をまともに棚においている本屋など、ここを除けば都内にあるとは思えない。
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三國一朗の世界―あるマルチ放送タレントの昭和史濱田 研吾
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凡庸なタイトルで、これでは三國さんが可哀そうだともおもったのだが、資料本としては誠実で堅実で、扱いやすい。ここではTBSの前身であるラジオ東京がかぎりなく非公式に近い形で行っていた在日アメリカ人向け番組(表向きは教養番組)「イングリッシュ・アワー」についての詳しい話がある。TBSの50年史と抱き合わせて読むと、その隙間からエピソードが匂ってくる。
さて、8歳の娘の話。今日もエスカレーターを降りたとたん駆け出すように「ぐるぐる」へと飛び込む。最近では横着して「ぐるぐる」としか言わない。新宿駅を出た大人が西口のションベン横丁(今はちゃんとした呼び名があったはず。おなじみの「最後に残されたバラック街」だ)に飛び込んでゆくのとなんだか似ている。
あとはひたすら自由行動。私が淡谷先生との対話を楽しんでいる間に、あっちこっち行って背表紙をたぐりながらあそんでいる。最近ちょっと漢字が読めるようになってきたもので、読む行為そのものがたのしいらしい。
小一時間ほどして様子をみたら本殿あたりに座り込んで本棚に持参の人形をおいて遊んでいたので(いいのか!)「あそこにエリザベス一世の本があるぞ」というと「エッ!」と目を輝かせて飛んでゆく。伝記とか偉人伝が好きなようで、児童館でもそういうものか、怪奇本ばかり読んでいるらしい。さっそく本棚から抜き出して立ち読みならぬ「座り読み」。ちゃんと椅子に座らせてじっくり読ませることにした(いいのか!)。しかし、わたしがポツリと「あれ、ジャンヌダルクもあるぞ」というと、すぐさまエリザベス一世を棚に反してジャンヌを抜き出して椅子に戻ってきた。
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ジャンヌ・ダルク フランスを救ったオルレアンの乙女 (学習漫画 世界の伝記)高瀬 直子
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どうやら児童館にもこの両冊(いわゆる「学習マンガ」)はおいてあり、何度も読んでいるらしいのだが、それでも食い入るように読んでいる。その間にわたしはもう一巡して資料探しをつづけた。
しばらく経って椅子の場所にもどってくると、ちょうどジャンヌダルクを読み終えて表紙をパタリととじたところ。あらら、全部読み終えちゃった。
「ちゃんと棚に返しておきなさい」と言う前に、ほんを差し出して「買って!」と言う。
身内をほめるのは気恥ずかしいのだが、これはいい客だ。また、この本もたいしたものだ。何度も読み返し、しかも書店で最後まで立ち読みされても決して「消費」はされていない。このあたりが、電子図書が将来ぶつかる壁になるはずだ。
その日は夜、落語会の収録。吉原の話をききながら、ジャンヌダルクと娘の関係が「遊女と客」の関係であり、通い通って馴染みになり、ついには「身請け」してしまったのだ、と理解した。
結局1時間半ちかくいた。この日はお隣でパフェをたべることもなく帰途へついた。どうやら「早く帰って、買ったばかりのジャンヌダルクを読みたい」らしいのだ。
ただ、家で読み始めると、棚に返さずほったらかしにする癖がある。
釣った魚に餌はやらない、というタイプだろうか。悪い旦那だ。
(川崎隆章)

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