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本ツクリビトたちのB-SIDE

第5回 出版社営業 柳原裕子 [後編]

2010年05月14日

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本を売るための“人探し”

 「1日200点以上の新刊が発行されているという現状で、本の作り手達は自分たちが作った本をなんとか人(=読者)に手に取ってもらおうとする。書店の面積が限られる中で、本の送り手はどうやって本の魅力を伝えようとしているのだろうか。例えばポップ、例えばフェア……。本を売る/伝える現場でできる様々な工夫があるけれど、それは一人だけでは形にならない。柳原さんの“人探し”という言葉に、それが表れているような気がする。

文/塩塚知也 写真/勝俣利彦

 

柳原 児童書は、大型書店はもちろんですけど、小さな町の書店さんからの受注が重要なんですね。専門書とは違って児童書を求められるお客さんは、その地域の書店さんに足を運ぶことが多いので、地域に根ざした書店さんでの展開が大切になってくるんです。
   全国をそれぞれが地域ごとに担当していて、例えば私のエリアは北海道、東北、東海地域なんですが、実際はそのエリアを一人ですべて回るのは難しい……。だから販売代行会社さんにお願いしているところもあって、私は足繁く通える東京の書店さんを中心に、そしてそれ以外の地域は季節ごとにはうかがえるよう、スケジュールを組んで回っています。

 

——担当されている書店回りでは、書店員の方とはどのような話をされているんでしょう?
 

柳原 新刊の紹介がメインになるんですけど、あとは棚の話が中心ですね。
   営業になったばかりのときはすごく頭でっかちで、事前にその書店さんの売り上げデータとか調べて、ここの書店さんはこういう傾向があるからこんな話をしよう、というような話の流れを組み立てて行ったりしたんですけど、うまくいったためしがあまりなくって。
   やっぱりコミュニーションなんですよね。いきなり名刺出してこの本を置いてください、この本がなくなってますよ、とはならないんですよ。ある程度、世間話とか普通の会話ができるようなコミュニケーションがとれる環境を作ってから細かい話もできるようになる。
   基本的に私たちが書店さんに行くのは自由……というか頼まれたりお願いされて行くわけではないので、じゃあそんな中で、書店の方に自分が必要性を持ってもらうにはどうしたらいいんだろう、と考えますよね。向こうから「あの本が売れているので持ってきてください」とお願いされるときはいいですけど、そういうことは少ないし、こちらからお願いすることの方が多いので、担当者さんの好みとか、この人にはこれを勧めてみようとか、少しずつ考えながらやっていくという感じです。最近思うのは、営業ってなんか人探しみたいなところがあるなって。

 

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—— 人探し、というのは?
 

柳原 棚の担当の方ってだいたい1人、児童書だと多くても2人なんですね。何を置いても売れる書店さんもあるけど、ほとんどはそうじゃない。だから書店員さんに、自分のところの本を好きになってもらって、納得して、積極的に置いてくれる人を探していく作業だという面もあるんじゃないかと。
   商品を置いてもらおうと思ったら、やっぱりその人を口説かなきゃいけない。なかなか口説けない人もいるけど、とにかくその商品をしっかりと理解してくれる人との関係をつくっていって、その中で、じゃあこういう棚を展開してみよう、フェアをやってみよう、という話ができるようになるのが理想なんだと思います。
   今度、ある書店さんで、星新一と江戸川乱歩と筒井康隆のフェアをやることになりまして。

 

—— すごい(笑)。なんだか不思議な組み合わせですね。
 

柳原 (笑)。そこは星新一の棚がよく動く書店だったので、星新一のフェアを提案したら、星新一だけだとスペースが埋まらないかも……という感じだったんですが、ちょうど江戸川乱歩の児童文庫がほかの店で売れてましたよ、という話をしたらじゃあ合わせて大御所作家フェアみたいなのをやろうって話になって……。さらにほかの出版社から筒井康隆の児童書が出るという話が出てきて、それもいっそくっつけちゃおうと(笑)。フェアのタイトルは『文学少年、永遠の本棚』となりました。
   今、1社だけのフェアって、バリエーションとして揃わないということがあってすごく難しくて。でも逆にそうなると今度は他社さんと一緒にやりましょう、という提案ができるので楽しい。
   ほかにも、例えば絵本だとパネル展とか、絵本の専門書店さんには原画展をしていただいたり。

 

—— フェアを他社さんと一緒にやるとなると、ほかの出版社の営業の方とつながりはできるものなんですか?
 

柳原 児童書に関していえば、男性は学校販売で横のつながりができるみたいなんですけど、普通の場合はどうなんだろう? 私は結構あるんですけど。
   児童書ってほかのジャンルに比べたら出版社の数が少ないので、営業先の書店さんで偶然会うことがあるんですね。それで挨拶して名刺交換して「御社で出されているあの本すごくいいですよね」みたいな会話からはじまって……。そこから「一緒に合同フェアやりましょう」とは、なかなかいかないですけども。でも、「どこどこの書店の担当の人変わっちゃったんだよ」とか、「あそこの児童書の担当者がどういう個性もっている」とか、書店さんの情報を共有できるのは非常に大きいですね。

 

—— なるほど。そういうよさはありますね。では営業の醍醐味ってなんでしょう?
 

柳原 やっぱり、自分が勧めた本が売れるとやっぱり嬉しい。あとは、うちは児童書の出版社なので、ポップとか拡販の材料をたくさんつくるんですけど、たとえば、今うちで『だじゃれ日本一周』っていう本がすごく売れているんですよ。ナンセンスな駄洒落が満載で好きなんですけど、ちょっと立体的なPOPを作って書店さんに持って行ったんです。それまで1冊くらいしか売れてないって言われていたんですけど、「その拡材をつけたら立て続けに2冊売れました!」とか言われると、手間をかけてやったかいがあるな、と思いますね。

 

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 去年出版した児童書の中でものすごく気に入ってる1冊があって、蜂飼耳さんの『のろのろひつじとせかせかひつじ』っていう児童書なんですけど。蜂飼さんは現代詩の詩人さんで今、とても人気がある方なんです。小説も書いていらっしゃいます。私、ゲラを読んだときに本当に理論社に入ってよかったっていうくらい大ヒットだったんですよ(笑)。それで、とにかく売らなきゃと思って、書籍を平積みする専用のオリジナルの箱を作りました。そうしたら、その箱とポップを持って行った書店さんにはすべて追加をもらえて。その本自体、新刊の児童書としては珍しいといわれるくらい動きがあるものだったので、重版も何度かかかって、非常にいい動きを見せてくれたのは嬉しかったですね。

 

—— 今、音楽と同様に書籍もデジタル化の動きが急速に進んできていて、業界的には大きな転換期を迎えていると思います。書籍の販売に関わる人間として、将来の展望をどう考えていますか?
 

柳原 今、本屋さんに足を運んで定期的に書籍を買う人って、紙をベースにした本を大事にしてくれる人が多いと思うんですよ。もちろん内容によってはデジタルに置き換わっていくものもあると思うし、それで満足する人もいるかもしれません。でも、例えば携帯電話で好きな作家さんを見つけて、紙の本で読んでみようという逆の流れもできるかもしれない。だからこそ、今まで紙の本を買い続けてくれた人たちをがっかりさせないような本を作り続けること、そういう姿勢をどこまで貫けるかなんじゃないか。

 

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 例えばこの『はてしない物語』という本は、この本が存在して、この装丁でなければ、「はてしない物語」にはならない。物語の内容と、物としての本そのものががリンクしていて、これが電子書籍では、話はまったく違うふうになってしまいます。
   本来、本はそういう可能性を秘めているものですよね。書かれた内容ももちろん大切ですが、装丁へのこだわりというか、本の“モノとしての魅力”がもう一度見直されはじめてもいいはず。

 

—— そうですね。これから紙のメディアを盛り上げていこう、となったとき、一つは当然紙に刷られたプロダクツとしての本が大事になってくると思うし、もう一つはそれを置く書店の役割も今まで以上に重要になってくると思います。で、その間にいる柳原さんの役割ってどんどん大きくなるんじゃないかな、と思っています。デジタルと紙で競合する部分はもちろんあると思うけど、紙の本の文化はそれとしてちゃんと守っていきたい。
 

柳原 その始まりとして絵本であり、児童書であると。人が本に触れるきっかけとなることは間違いないので、そこがなくなるとその後もすごく窮屈になってしまう気がします。紙の媒体をずっと読んでいたい私としては、本のよさを伝えるという使命もあるんだな、とお話をしながら思いました。これからも物としての本の価値観を忘れないようにしていきたいな、と思います。

 

 

仕事のルーツ

村上春樹『羊をめぐる冒険』(講談社)

この本がなければ、読書の魅力に気がつかなかったかもしれないっていうくらい精神的に衝撃を受けた本。ちょうど『ノルウェイの森』が社会現象になっていたころで、中学3年生くらいのときにむさぼるように読みました。それまでの価値観、既成概念をがガラリと変えられました。私の原点といえるかも。

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ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』(岩波書店)

取次に入って1年か2年目のときに勧められて読んで。この本を持っていることで、自分も主人公になれる、そして果てしなく物語が続いていく……。こういう本になぜもっと早く出会わなかったんだろうという後悔が、私がいま児童書を売っているモチベーションになっていると思います(笑)

 

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いしいしんじ『麦ふみクーツェ』(理論社)

表紙にすごく引かれて買った本で、そのときはまだ、いしいしんじさんがどんなものを書く人か全然知らなかったんですけど、とりあえず1行読んで「この人は天才なんじゃないか!」と。何かがなんとなくちょっとずつ悲しくて、すごく感情を揺さぶられました。

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プロフィール

柳原裕子(やなぎはら ゆうこ)
東京都出身。大学卒業後、取次へ入社。8年目で退職、ニュージーランドにワーキングホリデーで1年間滞在。2008年に理論社に入社。

 

取材協力

株式会社 理論社(http://www.rironsha.co.jp/

50年以上続く老舗の児童書出版社。数々の児童文学の名作を世に送り出しながら、海外文学、ノンフィクション、ヤングアダルトシリーズ、近年では「よりみちパン!セ」シリーズなど、ジャンルを超えて幅広く出版を展開。

 

 

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