◆講評◆----------------------------------------------
実際にある場所、本当にあった事件を舞台にファンタジックな恋物語が生まれました。アリスは空想の国にばかりいるのではないのですね。
下町の柴又から世界一の大都市NYへ、柴又と言えば寅さん、NYと言え ばエンパイヤステートビルと、場と人やものの間柄にも細やかな配慮をしつつ、大きく舞台背景を移動。さらに、見栄っぱりの寅さんをてっぺんで光る電球へ、仲の良いとら屋の面々を並び立つアンテナへ、いつもみんなを暖かく見守る御前様をお月様へと、それぞれの“らしさ”を全面に出したキャラクターの造形。大きく離れたワールドモデルの中に見事原作映画を再構築しています。このようにしっかりとワールドモデルとキャラクターの関係を読み替え、らしさを丁寧に移行する下準備があってこそ、アリスは生き生きとその力を発揮するのです。
そして、この物語には表面的な擬人化だけではなく、各章ごとに語られる名もない男女の恋物語にこそ、最大の工夫がありました。2人は個性も細かな説明もない、いわば影絵のような存在です。しかし、彼等の恋はエリックとヘレンとは逆のカーブを描き最後はハッピーエンド。これは原作の寅さんとリリーの反転した姿。適わぬ恋と解っているからこそ名もない2人に託すしかなかかった筆者の切ない思いが影絵となって、無邪気なファンタジーに陰翳を与えました。ほろ苦い余韻溢れる世界の翻りにアリス大賞を贈ります。
講評=番匠:高柳康代
◆受賞者の声◆----------------------------------------
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中嶋美奈子さん |
Great に Glad
まさか、まさか、まさか。自分の作品が一席を受賞するなんて、思ってもいませんでした。私は編集学校に入る前から踊りを学び、身体で表現すること得意としていたので、イシス編集学校に入ってからは言葉で表現するということに強い苦手意識を持っていたのです。だから、入賞と聞いた時は「驚き、喜び」よりも「自分の言葉は、そんなに悪くないんだ!」と安堵の思いが先に立ちました。
この物語、実は4コママンガを元にしています。師範代に「自分の好きで書いて良い」と言われたので、大好きなキラキラしたモノをアレコレ思い浮かべていました。そして、過去に私がNYに住んだ経験から「エンパイアと星」で物語りができないかなぁと、ノートにざっと4コマでラフに書きました。その時一応オチがついたので、その後、発展させていったんです。
カップルの話は「どうせならキラキラ三位一体!」と考え、「エンパイア—星—キャンドル」になったのでした。
NYの停電の話は、内容が決まってから色々と調べ、実際に過去にあったことだったので、4コマと絡むようにアレンジをしたんです。史実を元にしているようで、じつは後付けでした。
元が4コマというのと、私が昔、コントやシナリオやマンガを書いていたことが影響してか、始め、文章は半分以上が「セリフ」でした。そこを師範代とのやり取りの中で、さじ加減を見ながら推敲していったのですが、その時は[守]の編集稽古の「コップの言い換え」の稽古をしているような気分でした。
稽古を振り返ってみると、師範代の本気と、私の本気と、教室の場の力があったから、あの作品が生まれたのかなぁ、なんて思います。「物語」を作ろうとする行為は、じつはとっても「物語」的だったのだと、今は感じてるんです。

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